「茨の垣」や「僧房夢」は色々な解題に登場するので比較的良く知られている方であるが、 中・短編に関してはその実体が殆ど知られていない。 太平書屋刊行の秘作選集の解題でも、短編に就いては稿を改めてとしているが、実現はしていない。当館で出自まで確認できたのは、以下の「アンゴラ兎」のみである。
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【歓呼十種】と題する小冊子がある。 この小冊子に『口上』と題する巻頭言があり、『歓呼十種』命名の謂れが述べられている。 「戰後、余は新しい浪漫主義の立場から「散歩文学十種」と題する十個の短編小説を作り、これを諸雑誌によって發表した。 …略…さてその次の計画は、更に一段と趣向を加へた短編十種で、これを閑古十種と呼稱する。 こゝに於いて漸く大衆の興味を離れ、特殊の好事家ならでは、その趣味を鑑賞し難いと思はれる。 よってこの分は活字印刷とはせず、余自ら鉄筆を動かし、原稿のまゝをガリ版に附して、所謂好事家版として趣味家の間に頒つことゝした。 …略…冊子の題名は、閑古十種に通ずる「歓呼十種」とした。」 『歓呼十種』は『アンゴラ兎』を出した後長い間中断しており、続編の予告も行ったが、結局この一編が上梓されたのみで、未完に終わっている。 尚、『アンゴラ兎』は美和書院刊行の丹頂版「話をきく娘」に 『夜の秋』の題名で併載されている。伏字部分以外にも一部手直しがされているのは、氏のいつものパターンである。 |
太平書屋が秘作選集として閑古氏の秘作シリーズを刊行した際、戦前の発表作品及び稿本のままであったものも復刻している。 これらは自らの手に成る「賢愚經」の解題に作品名が列挙されているので、 この解題を見た人は知っていたであろうが(それでもごく僅かな人のみである)、従来全くその存在を知られていなかったものである。 その意味でも、この秘作選集の刊行は快挙と言って良いであろう。
尚、これらの作品に就いての知識、資料は皆無であるので、説明の部分は秘作選集の解題に全面的に依存している。