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閑話究題 XX文学の館 秘本縁起 山路閑古の秘本

賢愚経


表紙
解題
巻一
126×179133頁
ガリ版、四目綴
昭和25年5月
限定50部

本書の巻頭に「風流賢愚經 全五巻 解題」と題する見開きの解説が掲載されており、「而して時代は、昭和十一二年、即ち千九百三十六七年當時のそれを写してゐるから…略… 全篇を通じて十巻ある。その前五巻には、二人の女性がそれぞれ受胎妊娠に至るまでの徑路を描き、後篇五巻には、これらの婦人の出産分娩の有様が細敍されてゐる。 こゝに提供されるものは、その前篇五巻に相当する部分であり、後篇は戰火災の為惜しくも稿本のまゝ焼失した。」とある。 また、別刷りの発送案内にも「戲州(※3)は、この作品の他に、 「西行雨夜月」「源さんの話」「秋来抄」「殘花歸花」「和國神曲」(※4) 「茨の垣」など数々の作品を残して居り、(※5)…略… 本書はその中の最長編である「後雪抄」十二巻を改篇したもので、前篇七巻の中二巻を捨て、後篇五巻と併せて風流賢愚經十巻と題せられるものです。 その前篇五巻だけがここに發表されて居ります。」 とある通り、昭和11、2年頃の作品の様であるが、当時の稿本は既に失われており、今日初稿の内容を知る手段は全く無い。

ただ、上記の作品の内、「和國神曲」を除く総てが稿本か、刊行物として残存しているらしいことを考えても、後編だけ焼失したというのもよく判らない。 実際に刊行された後編の紹介には「前後篇を通じて八巻、即ち法華経八巻を象ったもので」とあるように、経緯に一貫性が無いのも気になる所である。

或いは、「歓呼十種」のように構想のみだったのではないかとの疑念も無いではない。

発行部数は五十部、配布は昭和25年5月である。

本書は太平書屋の秘作選集からも抜けており、実体が掴みにくい作品である。

尚、秘作選の解題に閑古秘作の長編一覧として11点が揚げられているが、 「後雪抄」に就いては「『後雪抄』という一本もあったが、これは惜しくも戦災で焼失したという。」ということで抜けている。 勿論、「賢愚經」との関連についての記述も無い。

尚、本書が美和書院紅鶴版として公刊された際、全体で五巻構成であったものを、巻参を省き、巻四と巻五を一つにまとめ、全体を三巻構成に書き換えている。 元々七巻であったものを五巻に書き換えた上に、さらに一巻削ってまで三巻構成にした理由は良く判らない。 落した巻参は後篇の「春しぐれ」の巻頭に持って来ており、物語の辻褄は合わせてある。(平成十三年八月十六日修正) その他の細かい個所の書き換えも多数存在するので、推敲に推敲を重ねた結果かも知れない(常により良きものを、と内容を改変して行くのは氏の特徴でもある)。 しかし、前巻に掲載しきれなかった「茨の垣」の残りの部分を掲載するためのスペースの確保が主な理由ではないのだろうか、との思いも捨てきれないでいる。

邪推に過ぎようか…。


風流賢愚経(美和書院版)
表紙
本文
補遺
A5判222頁
昭和29年3月31日限定500部
學校、圖書館、研究家用補遺
900×600 1枚
450×600 1枚

※3: 離々庵戲州がフルネームで、氏のもう一つの雅号である。往年の女優リリアン・ギッシュのもじりである。
尚、美和書院刊行の閑古作品の奥付の編者は岡田甫であるが、扉の署名は総て離々庵となっており、当時から見る人が見れば分る仕掛けにはなっていた。
※4: この作品に就いては、太平書屋の秘作選の解説を含め、あらゆる解題から抜けている謎の作品である。
※5: 氏の秘作第一号は「金比羅船」と題する作品だそうであるが、失われて伝わっていない。 ここに掲げた作品群からも抜けているので、かなり早い時期に失われたものと思われる。

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