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本書の巻頭に「風流賢愚經 全五巻 解題」と題する見開きの解説が掲載されており、「而して時代は、昭和十一二年、即ち千九百三十六七年當時のそれを写してゐるから…略… 全篇を通じて十巻ある。その前五巻には、二人の女性がそれぞれ受胎妊娠に至るまでの徑路を描き、後篇五巻には、これらの婦人の出産分娩の有様が細敍されてゐる。 こゝに提供されるものは、その前篇五巻に相当する部分であり、後篇は戰火災の為惜しくも稿本のまゝ焼失した。」とある。 また、別刷りの発送案内にも「戲州(※3)は、この作品の他に、 「西行雨夜月」「源さんの話」「秋来抄」「殘花歸花」「和國神曲」(※4) 「茨の垣」など数々の作品を残して居り、(※5)…略… 本書はその中の最長編である「後雪抄」十二巻を改篇したもので、前篇七巻の中二巻を捨て、後篇五巻と併せて風流賢愚經十巻と題せられるものです。 その前篇五巻だけがここに發表されて居ります。」 とある通り、昭和11、2年頃の作品の様であるが、当時の稿本は既に失われており、今日初稿の内容を知る手段は全く無い。 ただ、上記の作品の内、「和國神曲」を除く総てが稿本か、刊行物として残存しているらしいことを考えても、後編だけ焼失したというのもよく判らない。 実際に刊行された後編の紹介には「前後篇を通じて八巻、即ち法華経八巻を象ったもので」とあるように、経緯に一貫性が無いのも気になる所である。 或いは、「歓呼十種」のように構想のみだったのではないかとの疑念も無いではない。 発行部数は五十部、配布は昭和25年5月である。 本書は太平書屋の秘作選集からも抜けており、実体が掴みにくい作品である。 尚、秘作選の解題に閑古秘作の長編一覧として11点が揚げられているが、 「後雪抄」に就いては「『後雪抄』という一本もあったが、これは惜しくも戦災で焼失したという。」ということで抜けている。 勿論、「賢愚經」との関連についての記述も無い。 尚、本書が美和書院の紅鶴版として公刊された際、全体で五巻構成であったものを、巻参を省き、巻四と巻五を一つにまとめ、全体を三巻構成に書き換えている。
邪推に過ぎようか…。 |
※3: | 離々庵戲州がフルネームで、氏のもう一つの雅号である。往年の女優リリアン・ギッシュのもじりである。 尚、美和書院刊行の閑古作品の奥付の編者は岡田甫であるが、扉の署名は総て離々庵となっており、当時から見る人が見れば分る仕掛けにはなっていた。 |
※4: | この作品に就いては、太平書屋の秘作選の解説を含め、あらゆる解題から抜けている謎の作品である。 |
※5: | 氏の秘作第一号は「金比羅船」と題する作品だそうであるが、失われて伝わっていない。 ここに掲げた作品群からも抜けているので、かなり早い時期に失われたものと思われる。 |