雑誌【変態資料】の初めから梅原北明と終始行動を共にしていた酒井潔は、文芸市場社の最盛期に、一時軟派出版から離れていた。戻ってきた時は、北明とは別の行動をとり、北明の活動が縮小して行くのとは対照的に、過激に走らず、命脈を保ち続けた。文芸市場社本の装幀を手掛け、文献派として活躍した酒井自身の著書を始め、関係した出版社の刊行案内などを整理した。組んでいた刊行者が伊藤竹醉ということもあり、発禁処分にされたものはあっても、地下出版されたものはない。
国際文献刊行会は、昭和初期の艶本出版ブームの先駆けを成すものである。伏字だらけの{世界奇書異聞類聚}全十二巻は、大正十五年に既に刊行されている。分裂により出版社が乱立し始めた時、軟派出版のシンボル的扱いをされ、発行元の本家争いのネタになった「ファンニー・ヒル」も、元々はこの叢書のために準備されたものであった、と伝えられている。
酒井潔の単行本の中では代表的なものの一つに上げられるのが「愛の魔術」ではなかろうか。勿論地下本などではなく、通常の限定刊行である。この刊行案内の表紙を見ると、黒魔術の雰囲気が少し感じられるが、この全裸写真だけでも発禁になりそうである。「愛の魔術」は何処かに紛れて見付からないので、出て来次第書影を掲げる予定(実物はまだ出てこないが、以前取った写真が見つかったため追加する。平成十四年九月八日)。狭い部屋なのに何処へ行っちゃったんだろう…。
この世界に怪しげな薬や道具の宣伝パンフレットが存在することに何の不思議もない。しかし、国際文献刊行會がそれを行うことには多少の違和感が伴う。
総ての記事を酒井個人の著述で埋める、と言うコンセプトで刊行された雑誌【談奇】が七冊も出たこと自体が不思議である。取り立ててエロ味が強い訳でもなく(発禁は一冊)、単独執筆という形式の限界からも、そのことは言える。昭和五年五月から昭和五年十二月に掛けて七冊発行され、第六号(昭和五年十月)が発禁処分を受けている。
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伊藤竹醉は、【文芸市場】の当初の発行人であったり、朝香屋書店を切り盛りしていたが、【変態資料】他で文芸市場社が摘発を受けた際、勘違いで警察に二週間検束された体験から、非合法出版を嫌っていたと言われている。
「悪魔の心臓に噛みつく」は北明による「巴里上海歡樂郷案内」推薦文です。
朝香屋書店は元々医学書も扱っていたらしいので、その流れを組む竹醉書房から医学書らしきものが出ることもあろう。しかし、酒井デザインの「貞操指輪」なるものは一体ぜんたい何なのであろうか。図も載っていて、個人的には一つぐらい欲しい代物ではあるが、産科関連の書籍刊行案内の裏面に貞操帯を形取った指輪のお知らせを入れるというのは、如何なものであろうか。
文芸資料研究会で【奇書】の編集などに携わっていた竹内道之助が起こした同会は、雑誌【風俗資料】、【デカメロン】などを発行したが、軟派ではあるが、それ程過激な内容のものではなかった。