梅原北明の文芸市場社と上森健一郎の文芸資料研究会編集部が分裂した時、上森側に付いた福山福太郎であったが、{変態十二史}が終了し、【変態資料】の会員も減ってくると、上森のプランナーとしての手腕に不安を感じたためか、自分の事務所内にあった文芸資料研究会を独立させ、所謂三派鼎立時代の幕開けとなる雑誌【奇書】を登場させる。あまりにも派手に動きすぎて立ち行かなくなった雑誌【カーマシャストラ】から佐藤紅霞を顧問に迎え、少し硬めの軟派雑誌として刊行された。硬めとは言っても全十三冊中、一巻二号、一巻六号の二冊以外は総て発禁になると言う状態であったから、それなりの内容ではある。発禁になった十一冊の内、最後の二冊は頒布前に押収されているため現存しないはずである。
過日、戦前の刊行案内などを整理していたら、筐底より文芸資料研究会解散時(?)の処分本案内が出て来た。それによると、二巻三号も発禁にはなっていないようであり、結局発禁になったのは十冊ということになる。人の記述に難癖をつける割には自身がこの体たらくでは情けない。特に最近記述ミスの訂正が多いような気がする。逆に言えば、ポイントになるような資料が出始めているという事でもあるが…(平成十三年八月十六日追記)
執筆陣は佐藤紅霞の他、風俗関係の重鎮藤澤衛彦、江戸軟派文献の大家石川巌、尾崎久彌、古川柳研究家の大曲駒村、かって雑誌【性の研究】を主宰した北野博美などの文献派が常連として顔を出している。単発では石角春之助、印度性典の権威泉芳mが寄稿するなど豪華な顔触れである。
福山には十分な資金が有ったためか、一号と二号は無料で頒布するという剛胆な手段に出た。本業が印刷屋であるため、経費を低く押さえられるという点も有利に作用したであろう。
上森一派が分裂を繰り返し、世間がエログロ・ナンセンスと騒いでいる中、当局の相次ぐ弾圧に力尽きた【奇書】は廃刊に追い込まれ、文芸資料研究会も消滅して行った。
奇書(十三冊) | ||
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判型 | 菊判 | |
編集兼発行 | 中田耕造、 一巻六号から飯田威之助 | |
発行所 | 文藝資料研究會 | |
刊年 | 昭和三年五月二十日 〜 昭和四年四月十五日 |
第一巻 第一號 | ||
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頁数 | 24頁 | |
刊年 | 昭和三年五月二十日 |
目次 | ||
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近世墮胎文献考
|
藤澤衛彦 | 1 |
女人秘事 | 北野博美 | 7 |
性的小話
|
佐々木指月 | 14 |
亞剌比亞奇書 老人若返り法
|
佐藤紅霞譯 | 17 |
第二回配本豫告 | 22 | |
編輯を了へて | 23 | |
繪入 日本艶書考(刊行案内) | 24 |
第一巻 第二號 | ||
---|---|---|
頁数 | 24頁 | |
刊年 | 昭和三年七月三日 |
目次 | ||
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口繪 貞操帶の鍵手交の圖(十七世紀ドイツの風刺銅板畫) 宿屋の出火(イギリスの風刺畫) トマス・ロオランドスン筆 |
||
欧米珍書解題(一)「ジェエムス・グリユネルト」 | 1 | |
近世墮胎文献考
|
藤澤衛彦 | 2 |
ポルチヨン美女傳
|
愁風草盧主人 | 5 |
「變態魔街考」禮讃 | 大野 卓 | 10 |
亞剌比亞奇書 老人若返り法
|
佐藤紅霞譯 | 12 |
お願ひ二つ! | 17下囲 | |
劇場隱語考 | 石角春之助 | 18 |
陰毛に關する奇習 | 21下囲 | |
羊頭狗肉 好色恐怖變態本配本第三回目 | 22 | |
編輯を了へて | 23 | |
繪入 日本艶書考(刊行案内) | 24 |
第一巻 第三號 | ||
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頁数 | 88頁 | |
刊年 | 昭和三年七月三十日 |
目次 | ||
---|---|---|
口繪 The bare hip of the swine | 表紙裏 | |
口繪 アルパーテイ(ドイツ渡りの銅板風俗繪) The Night Mare |
||
デカメロン畫譜
|
2 | |
好色獸叢話
|
藤澤衛彦 | 6 |
性的技巧の醫學的考察
|
浪華醫人 | 10 |
船饅頭考 | 石川巌 | 20 |
東西賣淫雜考
|
松岡貞二 | 25 |
CONTE EROTIQUE
|
佐々木指月 | 30 |
王樣の愛人 ――ツーレーヌ情痴譚―― |
愁風艸盧主人 | 32 |
映畫に現れた情的描寫 | 二斗無酒 | 40 |
造化玉手箱の披露(一) | 小山鬼面子 | 55 |
亞剌比亞奇書 老人若返り法
|
佐藤紅霞譯 | 65 |
二夫二婦主義 | 北野博美 | 71 |
近世墮胎文献考
|
藤澤衛彦 | 75 |
文學に於ける性的象徴主義
|
アルバート・モーデル 北野博美訳譯 | 84 |
…會員諸兄にお願ひがあります… | 87 | |
編輯の後 | 88 | |
若返りの珍品を取次ぎます | 裏表紙裏 |
第一巻 第四號 | ||
---|---|---|
頁数 | 88頁 | |
刊年 | 昭和三年九月十日 |
目次 | ||
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LIQUERS(輸入洋酒の宣伝) | 表紙裏 | |
口繪 昔々白首客引の圖 怪しからぬ影 アドルフ・オーベルレンデル作 |
||
好色獸叢話
|
藤澤衛彦 | 2 |
江戸文藝と男色
|
石川 巌 | 7 |
上海の江上に見る女性
|
後藤朝太郎 | 21 |
精神分析で見露はさるる幽靈の正體 | 矢部八重吉 | 25 |
小説で讀んだエロティシズム | 畑耕一 | 32 |
性的映畫凡觀
|
袋 一平 | 35 |
軟派漫談會
|
45 | |
|
58 | |
近世墮胎文献考
|
藤澤衛彦 | 59 |
追加豫告 變態文献叢書 | 66 | |
變態今昔物語 | ||
猥談玩具箱 | 正宗狂水 | 68 |
變態茶話
|
楠墨庵主人 | 73 |
性的小咄
|
小内鬼面子 | 78 |
欧米珍書解題(其二)「アメチスト」 | 82 | |
文學に於ける性的象徴主義
|
アルバート・モーデル 北野博美譯 | 83 |
編輯の後 | 88 | |
仏蘭西製 耐久サック | 89上 | |
若返りの珍品を取次ぎます | 89下 | |
EROTONIQUE =生殖器強壯劑= | 裏表紙裏 |
第一巻 第五號 | ||
---|---|---|
頁数 | 88頁 | |
刊年 | 昭和三年十月十日 |
目次 | ||
---|---|---|
口繪 渓流を渉渡る女(独逸のあぶな繪) 物凄い舞臺面 |
||
好色獸叢話
|
藤澤衛彦 | 2 |
隱號考
|
尾崎久彌 | 6 |
貞操帯と海老錠 | 佐藤紅霞 | 12 |
川柳繪島生島 | 大曲駒村 | 23 |
近代戀愛の表情術 | 畑 耕一 | 29 |
續猥談玩具箱 | 正宗狂水 | 34 |
被鋏切映畫考 | 袋 一平 | 44 |
艶聞軟派雑考
|
氷川碧人 | 54 |
醉餘微妙和酒閑談
|
松下潤作 | 60 |
アダムとエワ(軟派小咄) | 63囲 | |
鈴の念行 | 小内鬼面子 | 64 |
檢黴法實施當時の珍文 | 大野卓 | 66 |
時花何だい節唆りの分布 | 藤澤衛彦 | 68 |
十返舍一九 教訓相撲取草に就いて | 石川 巌 | 73 |
文學に於ける性的象徴主義
|
アルバート・モーデル 北野博美譯 | 82 |
變態文献叢書追加分内容 | 87 | |
編輯の後 | 88 | |
若返りの珍品を取次ぎます | 裏表紙裏 |
第一巻 第六號 | ||
---|---|---|
頁数 | 88頁 | |
刊年 | 昭和三年十一月十六日 |
目次 | ||
---|---|---|
問題の寳庫を開放します | 表紙裏 | |
口繪 姦夫姦婦の肖像(十七世紀仏蘭西の風刺銅板畫) かげうらの豆 BY AUBREY BEARDLEY |
||
舞踊風韻 | 永田龍雄 | 2 |
川柳卑娼考
|
大曲駒村 | 10 |
前號、氷川碧人氏の「やかた船と賣笑婦」を讀む | 23下 | |
江戸城大奥の女 ――奥女中繪島――
|
横井春野 | 24 |
南北の濡れ場 | 渥美清太郎 | 28 |
銀幕接吻之眞相 | 二斗無酒 | 33 |
ポーランド夜話 奈翁皇帝情痴譚 |
破琴荘主人 | 42 |
軟派小咄選
|
佐渡志摩太郎 | 55 |
吉原投込寺
|
石角春之助 | 59 |
妖怪畫の構成
|
藤澤衛彦 | 63 |
伝説より見たる支那の妖怪 | 澁澤青花 | 71 |
文學に於ける性的象徴主義
|
アルバート・モーデル 北野博美譯 | 78 |
編輯の後 | 88 | |
艶麗眼をあざむく 天下の珍書をお裾分けします | 裏表紙裏 |
臨時増刊 | ||
---|---|---|
頁数 | 161頁 | |
刊年 | 昭和三年十二月八日 |
目次 | ||
---|---|---|
口繪 無題原色二葉 古代の Priapus 崇拝(折込) 誰でも這入れる劇場 男女混浴之圖 若返りの泉(其一) 若返りの泉(其二) 浴みのスザンナ ゲオルゲ・グロツス作 |
||
世界艶書目録並解題 | 佐藤紅霞 | 1 |
日本艶本目録 附 支那艶本目録 |
大野卓 | 51 |
歌麿前後 會本解題
|
封醉小史 | 105 |
世界陰毛奇譚
|
佐藤紅霞 | 122 |
附録 | ||
古醫書に見えた性問題
|
横井春野 | 132 |
デリカシー要求 | 正宗狂水 | 135 |
新横濱暗K界縦横記 | 赤坂新助 | 141 |
婦人の性的不能 ――不感症の精~分析的研究――
|
Wilhelm Stekel | 149 |
編輯の後 | 161 |
第一巻 第七號 | ||
---|---|---|
頁数 | 92+4頁 | |
刊年 | 昭和三年十二月八日 |
目次 | ||
---|---|---|
口繪 Erotic Day and Night of Merry Christmas(軟選す畫集) Out-doors In-doors End of the Day 夢は――? 現實は――? |
||
好色獸叢話
|
藤澤衛彦 | 2 |
小咄本雜考
|
尾崎久彌 | 7 |
支那乾棗に見る奇習
|
後藤朝太郎 | 20 |
猥説 人相學漫談(一) | 町子 房 | 34 |
原稿を募る | 39下囲 | |
不思議な話
|
富岡皷川 | 40 |
川柳肉感考 | 色鬼聖人 | 47 |
變態性慾者と刑囚の性的行為 | 市塲櫻郎 | 57 |
『留垤薩克』の話
|
植原路郎 | 64 |
江戸城大奥の女(二) ――奥女中繪島――
|
横井春野 | 68 |
文學に於ける性的象徴主義
|
アルバート・モーデル 北野博美譯 | 72 |
乳房美崇拜 | 佐藤紅霞 | 74 |
編輯の後 | 92 | |
〓娯情傳 | 呉門 徐昌齡著 | 一 |
艶麗眼をあざむく 天下の珍書をお裾分けします | 裏表紙裏 |
第二巻 第一號 | ||
---|---|---|
頁数 | 124頁 | |
刊年 | 昭和四年一月三十一日 |
目次 | ||
---|---|---|
問題の寳庫を開放します | 表紙裏 | |
口繪 瀧澤馬琴「北國巡禮記」第八番 色に溺るる人 ヂュヴェナルに寄する(ビアヅレー作) 好色老人全集 淫亂者磔刑之圖(ロップス「レ・サタニツク」より) 肉迫(筆者不詳) |
||
北國巡禮記解嘲
|
藤澤衛彦 | 2 |
性的技巧の醫學的考察
|
浪華醫人 | 34 |
小咄本雜考
|
尾崎久彌 | 38 |
基督教の説く「生命の門」に就いて | 瀧本二郎 | 45 |
軟派随筆選集 | ||
デリカシー要求 | 正宗狂水 | 56 |
映畫人秘聞漫談 | 覆面居士 | 65 |
性的方面から觀た「不思議な記」
|
富岡皷川 | 71 |
町繪師筆禍覺帳(一)
|
大曲駒村 | 77 |
母權と亂婚と姦通 | 皆川美彦 | 92 |
能の面縁起
|
横井春野 | 99 |
次號豫告 | 101下 | |
細民の性的行為と悪女の戀愛 | 市場櫻村 | 102 |
性的迷信と巫女妄想 | 佐藤紅霞 | 108 |
編輯の後 | 裏表紙裏 |
第二巻 第二號 | ||
---|---|---|
頁数 | 96頁 | |
刊年 | 昭和四年二月二十八日 |
目次 | ||
---|---|---|
問題の寳庫を開放します | 表紙裏 | |
口繪 駘蕩たるハレム氣分(トーマス・ローランドスン作) カルカッタに於ける英人のオークション(トーマス・ローランドスン作) アペレスとカムパステ(J・G・ミユラア作) 恐るべき公開舞踏場(J・R・クルツクシヤンク作) |
||
續好色獸叢話
|
續藤澤衛彦 | 2 |
性的魔術と戀愛媚藥 | 佐藤紅霞 | 10 |
性器を利用する巫術
|
中山太郎 | 21 |
町繪師筆禍覺帳(二) | 大曲駒村 | 25 |
女角力考 | 田中香涯 | 37 |
アナンガランガの梵文原典を解説す | 泉 芳m | 42 |
蒼溟樓漫話(一)
|
岡田蒼溟 | 55 |
大阪賤娼考
|
耽好洞主人 | 62 |
蛇身の女の戀 | 市場櫻村 | 71 |
随筆ところどころ | 村上杏子 | 75下 |
活躍舞臺より見た歐米人の性業婦人 | 瀧本二郎 | 76 |
ハレム紅閨誌(一)
|
皆川美彦 | 86 |
編輯の後 | 96 | |
報告 | 裏表紙裏 |
第二巻 第三號 | ||
---|---|---|
頁数 | 98頁 | |
刊年 | 昭和四年四月十五日 |
目次 | ||
---|---|---|
問題の寳庫を開放します | 表紙裏 | |
口繪 幸bフ前味(J・B・ゴーテイエ筆) 血すぢは爭れは(ママ)ぬ(ハー・ゲルバルド筆) |
||
續好色獸叢話
|
續藤澤衛彦 | 2 |
色里歌謡文獻資料 | 石川 巌 | 6 |
雪隱奇習
|
後藤朝太郎 | 21 |
珍奇二書
|
尾崎久彌 | 36 |
町繪師筆禍覺帳(三)
|
大曲駒村 | 54 |
光る怪奇物 | 古川龍城 | 60 |
想嫁風姿
|
耽好洞主人 | 66 |
随筆ところどころ | 村上杏子 | 76 |
ハレム紅閨誌(二)
|
皆川美彦 | 79 |
編輯の後 | 裏表紙裏 |
第二巻 第四號 | ||
---|---|---|
頁数 | 頁 | |
刊年 | 未頒布押収 |
第二巻 第五號 | ||
---|---|---|
頁数 | 頁 | |
刊年 | 未頒布押収 |