元々二流新聞の外交記者であった梅原北明は「デカメロン」や「ロシア大革命史」の翻訳で名を知られるようになっていたことで、左翼文芸雑誌である【文芸市場】発刊の際に編集を任されることになる。同誌に掲載した原稿の叩売りを行うなど奇抜な行動で新聞ダネを提供したが、雑誌の売れ行きは今一つであった。
文芸誌が売れないのは今も昔も変わらない。北明は文芸誌から風俗誌、左から右へと方向転換して行くが、それでも赤字はかさむばかり。【文芸市場】赤字解消のための窮余の一策{変態十二史}の刊行が予想外に大当たりした北明は、そこで得た利益を資金に雑誌【変態資料】の発刊に踏み切る。この雑誌もヒットし、赤からピンクへの転向を果たした北明は、全精力を売れる雑誌【変態資料】一本に注いだため、必然的に【文芸市場】は休刊を余儀なくされる。
しかし、好事魔多しとでも言うか、当局の手入れを受け、{変態十二史}以外の刊行物の無納本がばれ、社内の動揺一方ならず混乱を極めた。結果、北明は【変態資料】から離れ、休刊していた【文芸市場】を復刊することになる。但し、【変態資料】に対抗しての復刊故、内容は風俗からエロ(かなりのグロ味を含む)へと三度目の衣替えをした上での登場であった。
北明の他、盟友酒井潔、文献派の佐藤紅霞らが健筆をふるったためか、復刊号の六月号を除き終刊まで発禁の連続となる。『発売禁止道中双六』と題した納本から発禁、押収に至るまでの流れを双六風に仕立て、その説明『神秘をあばく』と共に八月号の表紙を飾る、と言った当局を逆なでするような暴挙(快挙?)に出るなど、当局との対立を鮮明にして行く北明の出発点となった雑誌でもある。
佐藤紅霞の『川柳変態性欲史』や『蚤十夜物語』は、後にそれぞれ温故書屋、文芸資料研究会から単行本として刊行される。
文芸誌、風俗誌時代は除き、桃色化した復刊以降終刊までの四冊を取り上げた。
文藝市場(全十九冊) | ||
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判型 | 菊判 | |
編集 | 梅原北明 | |
発行 | 梅原貞康(北明のこと) | |
発行所 | 文藝市場社 | |
刊年 | 大正十四年十一月 〜 昭和二年十月一日 |
内容改革六月号 | ||||||
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頁数 | 190頁 |
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刊年 | 昭和二年六月一日 | |||||
通巻 | 第三巻第六号 |
目次 | |||
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口絵 お七地蔵、八百屋お七の墓 一日一夜物語(酒井 潔画) |
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口上 | 梅原北明 | 2 | |
更正六月號献立表 | 3 | ||
女權論者の未來の樂園 | 4 | ||
「八百屋お七」二百五十年追善供養記念文献集 | |||
お七がためのお七祭り | 梅原北明 | 5 | |
文藝上に現れた八百屋お七 | 笹川臨風 | 8 | |
歌舞伎劇に現れたお七 | 渥美清太郎 | 13 | |
八百屋お七
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藤澤衛彦 | 19 | |
お七と覗機關節 | 藤澤衛彦 | 49 | |
反逆異聞 竹橋騒動史
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梅原北明 | 54 | |
本誌次號豫告 | 79 | ||
世界珍書解題(一)
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酒井 潔 | 80 | |
近世落書報道史
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梅原北明 | 90 | |
一日一夜物語 | 酒井 潔 | 110 | |
巡回串談會の催 | 梅原北明 | 129左囲 | |
新聞に出た記事本位の 高橋お傳夜刄譚
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梅原北明 | 128 (ダブリ) |
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澤田撫松居士追悼 | |||
澤田撫松君を悼む | 佐藤紅霞 | 158 | |
寂光院泰嶽撫松居士靈前の未亡人、故澤田撫松氏像 | 別丁写真 | ||
澤田撫松居士を弔ふ | 江見水蔭 | 162 | |
或日の澤田撫松君 | 生方敏郎 | 164 | |
撫松先生 | 田中貢太郎 | 166 | |
唯一の法廷文藝家 | 松崎天民 | 167 | |
隣人澤田撫松氏 | 木村毅 | 169 | |
澤田撫松氏の印象 | 石角春之助 | 170 | |
憶ひ出はつきない | 井東憲 | 171 | |
澤田氏を悼む | 青山倭文二 | 174 | |
寂光院泰嶽撫松居士 | 梅原北明 | 175 | |
故澤田撫松氏追悼會 | 177下囲 | ||
川柳變態性慾史(一)
|
佐藤紅霞 | 178 | |
校了の日に | 190 |
七月号 | ||
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頁数 | 168頁 | |
刊年 | 昭和二年七月一日 | |
通巻 | 第三巻七号 |
目次 | 2 | ||
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口絵 刺青写真二図、豊国漫画図絵 | |||
日本性愛奥義篇(一)
|
酒井 潔 | 5 | |
獸姦雜考(一)
|
梅原北明 | 24 | |
八月號豫告、市場叢書の第一冊 | 35 | ||
明治文藝雜談(一) 硯友社とその一派の雜誌
|
齋藤昌三 | 36 | |
死刑執行所覗き | 小座間茂 | 42 | |
女衒考 | 梅原北明 | 49 | |
妖術者の群
|
藤澤衛彦 | 57 | |
世界文身考(一)
|
ハムブレイ著 佐藤紅霞 交代 梅原北明 翻譯 | 95 | |
東都暗K面觀察記 | |||
東京不良少年往來
|
サトウ・ハチロー | 108 | |
玉の井魔窟探険 | 石角春之助 | 115 | |
東都質屋往來
|
繁山鮎太郎 | 122 | |
人間倉庫 | 熊坂長範 | 126 | |
木賃宿巡禮 | 石角春之助 | 132 | |
「フアンニ・ヒール」の僞版その他 | (梅原北明) | 140 | |
世界珍所解題(二)
|
酒井 潔 | 141 | |
編輯後記 | 150 | ||
増補 艶本目録(五)
|
151 |
八月号(暑苦号) | ||||||
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頁数 | 167頁 |
|
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刊年 | 昭和二年八月一日 | |||||
通巻 | 第三巻八号 |
目次 | ||
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口絵
|
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八月暑苦號之目次 | 2 | |
腸を喰ふ(写真) | 4 | |
宗教刑罰の殘虐 | 酒井 潔 | 5 |
近世慘虐犯罪史
|
梅原北明 | 15 |
樵小屋の慘事
|
佐左木俊郎 | 68 |
てきや細見(一)
|
和田信義 | 81 |
淺草の今昔
|
石角春之助 | 100 |
九月號豫告 | 108 | |
接吻の研究(一)
|
青小鳥 | 109 |
故 樋田悦之助初七日追悼座談會 (出席者)
|
118 | |
在りし日の樋田悦之助君 | 別丁写真 | |
樋田悦之助君を憶ふ | 井東 憲 | 138 |
茶目一夕話 (出席者)
|
141 | |
世界珍書解題(三)
|
佐藤紅霞 | 155 |
世界珍書解題(四)
|
泉 芳m | 163 |
後記(表題は無い)
|
167 |
九、十月合併号(世界デカメロン号) | ||
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頁数 | 322頁 | |
刊年 | 昭和二年十月一日 | |
通巻 | 第三巻九号 |
目次 | ||
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秋季倍大目次 | 2 | |
口絵 別丁彩色一葉(ロップス) |
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デカメロンの文献に就いて | 5 | |
でかめろん(伊太利)
|
ジョヴァンニ・ボッカチオ作 梅原北明訳譯 | 17 |
ペルシア(目次はペルシヤ)・デカメロン(波斯)
|
道出茂好 | 135 |
おろしや(目次はロシア)・デカメロン(露西亜)
|
酒井 潔 | 156 |
日本でかめろん(目次はデカメロン)(古代篇)(日本)
|
伊藤竹酔 | 174 |
エプタメロン(仏蘭西)
|
ナバル女王作 梅原北明訳譯 | 190 |
蚤十夜物語(英吉利) | 佐藤紅霞 | 218 |
二日二夜物語(東洋) | 酒井 潔 | 236 |
賣笑婦の一生(特別附録) | エルセン画 | 別丁16頁 |
往昔丹波情調
|
石角春之助 | 250 |
ロップスの秘戯畫
|
南江二郎 | 260 |
古代東洋性慾教科書研究
|
酒井 潔 | 267 |
世界珍書解題(五)
|
梅原北明 | 313 |
身邊雜記 | 322 |