閑古氏の昭和33年の年賀状に『本年新春の企画としては、目下長編小説「貝寄せ」を私家版として出版する準備をしております。
これは某書店の依頼によって書き下し、第五豪華本として出版する予定でありましたが、都合により予定変更して、久振りで自筆、自刷の私家版を作ることにしました。』
とある。某書店とは美和書院のことで、既刊の四冊は「茨の垣」「風流賢愚經」「春しぐれ」「糸遊」である。
美和書院から本書が上梓される予定であったと言うのはこの年賀状で初めて知ったが、後期の紅鶴版、丹頂版は江戸物から現代物へと方向転換していったことを考えると頷ける。
また、頒布案内に『実はこの小著は長女の結婚費用に充てる目的で企画したものでありますが』とあるように、結婚費用捻出のための出版であることが分かる。
頒価は例によって寄付という形で、一口五百円、限定百部(実発行部数百五十部)として3月に刊行案内が配布されたが、発送されたのは7月になってからである。
構成は以下の八編から成るオムニバス形式の短編集である。
- 悪あがき
- 木曽の山
- 腹ちがい
- 臨床医学
- 祇園囃子
- 浮きぶくろ
- 心中未遂
- 妻の手記
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