地下本に限ったことではないが、古書/古本の価格にはそれこそピンからキリまである。一般的には学術的、文化的視点から見た価値、稀覯性、対象そのものの汚損度、そして欲している人の執着度等により価格が決定されるであろう。これらを地下本に当てはめた場合(地下本の定義にも依るが、小説の類だけに限っても)、
などの理由から、概して世間で思われている程高くはない。寧ろ公刊書の影響もあってか、以前に高値を付けていたもの程値下がりが激しい。とは言っても、ものには限度があると思っていた。 所が、今年初め(平成十二年一月十五日)の展覧会(下町書友会、東京古書会館)にアッとビックリのものが出ていた。離々庵戯州の私家版「僧房夢」の原本である。
別にガラスケースに収まっていた訳ではない。無造作に立て掛けてあっただけである。それだけでも驚くには十分であるが、展覧会二日目の午後になっても未だ売れ残っている。しかも、値段を見てさらに驚愕。なんと2000円である。二万円ではない。二千円である。少し前までは作者不明の傑作と喧伝され、全貌の公開は何時になることやらと言われていた作品の原本である。発行部数も二百部のみ(後に七十部程追加)、昭和六十一年五月に完全復刻したものも百五十部限定と数少ない。それが、たったの2000円(ガリ版刷りの地下本でも程度が普通ならこんなに安くはない)でも売れ残る現実。購入したのは勿論だが、嬉しいやら悲しいやら複雑な心境である。
実はもう一点、同じ作者の「茨の垣」前後編二冊の原本も隣りに置いてあったのだ。昭和艶笑文学の最高傑作とまで絶賛されている「茨の垣」の原本である。その文学性、稀覯性、資料としての価値、何れをとってもこの種の研究には欠かせない第一級の資料である。8000円(嗚呼)。