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ネタ帳 『談奇党』三号「好色文学受難録」誕生までの経緯

雑誌『談奇党』三号(洛成館、昭和六年十二月)には「好色文学受難録」の副題が付けられていて、大正末から昭和初期にかけて盛況を博していた軟派出版界の裏面史だけで埋めた特集号です。当時の秘密出版を含む発禁書籍の一覧のようなものは少なくはありませんが、本そのものではなく、出版状況を今日調査研究するための基礎資料としては唯一の存在と言えるでしょう。この雑誌が発行されるに至った経緯を各種刊行案内を通して見ていきます。


秘密出版史
秘密出版史

始まりは『珍書秘画秘密出版史』(文献堂書院)刊行の企画です。刊行案内冊子の表紙には「文献堂書院調査部編」「別名 軟派出版軟検挙録」下段に横書きで「軟派出版の内面暴露」とあります。巻頭にも「軟派出版の内面暴露と。峻厳無比なる検挙秘録。一切の謎は今や自白の元に」とあるように、昭和四年から五年に掛けて弾圧を受けた軟派出版屋の裏面史であると謳っています。出版の趣旨は書かれていますが、具体的な内容は不明です。「本書の巻末に明治、大正、昭和の発禁書一覧添付す」を含めて四百五十頁の大冊で、豪華版三百部、並製版五百部、配本は五月末日の予定になっていましたが、結局刊行はされませんでした。この案内にはもう一つ「北明論」(中野正人)も載っています。三百余頁で限定数はなく五月二十日頃配本予定とありますが、こちらも未刊行です。戦後に刊行された雑誌「奇書」(東京限定版クラブ)VII(1953年5月25日)、VIII(1953年7月1日)に連載された花房四郎(遺稿)の「好色出版史の内 梅原北明のこと」が原稿の一部と思われます。

北明論

エロ出版捕物帳
エロ出版捕物帳
エロ出版捕物帳 刊行案内

『エロ出版捕物帳』は志摩房之助著となっていますが、「好色文学の発禁受難録と秘密出版の生々しい体験を晒しだした希有の快著」とあるように受難録を謳っている点で前掲『珍書秘画秘密出版史』の刊行を再度試みたように思われます。発行所は未記載ですが、申込宛名が伊藤方志摩房之として伊藤竹醉の住所になっています。二百部限定で昭和六年七月中旬に製本出来とされていますが、これも刊行されていません。新機軸として志摩房之助なる著者を持ってきています。目次の主なものが掲載されていますので、概要を想像することは可能です。

 

好色文学受難録
好色文学受難録 刊行案内

ついに『好色文学受難録』一名「エロ出版捕物帖」の刊行案内が出ました。「幾度か刊行を企てられ、幾度か没却し、幾度か躊躇し、危うく暗から暗に葬り去られんとしたこの〓〓珍書弾圧史〓〓がやっと白日の下に暴露された。」「妙竹林齋……志摩房之助」「鳩々園主人……耽好同人」責任編集で発売元が粋古堂書店ですから引き続き伊藤竹醉関連で、発行所は未記載です。口絵二枚を含め『談奇党』三号と同一の内容で、菊判仮装となっています。ほぼ雑誌同様の形態ですが、単行本としての販売を考えていたようです。いつ頃の案内か不明ですが「吾々同人」とありますので、『談奇党』創刊以降と考えられます。単行本としては出ていないと思われます。


談奇党三号
談奇党 三号
談奇党三号

そして『談奇党』三号、好色文学受難録、洛成館、昭和六年十二月一日発行となります。

 
 

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