雑誌【変態資料】の創刊以来、常に梅原北明と行動を共にしていた酒井潔の個人誌である。北明と上森健一郎が袂を分かった時は、女房役と言われた中野正人が上森側に付いたにも関わらず、酒井は北明側にいたし、当局の追求を逃れるために上海へ逃避した時も一緒であった。その酒井が、北明の前から姿を消したのは、公刊誌【グロテスク】や叢書｛談奇館随筆｝の刊行で、一般世間から北明が最も注目されていた、昭和四年四月頃である。自身の結婚のため、郷里の名古屋に戻ったとされている。
酒井自身の言葉によれば
【談奇】創刊号『一家言』私が「文藝市場」と絶縁したのは、去年の四月だから、今月で丁度滿１ヶ年になる。…略
略…何故私が「文市」を去ったかと云ふ事情を率直に述べて置くのも無駄ではあるまいと思うから、ちっとも飾り気の無い所を簡潔に語って見やう。
略…梅原と云う人は、いゝ意味でも悪い意味でも骨の髄までジャーナリズムで一杯になって居る男である。それあるために彼は今日の名前を勝ち得たのである。其處へ行くと私は全然其の反對な性質を持って居る。從っていつかは思想の上に於いて衝突を來たす事は分り切った話であった。
こうした性格上の相違が、行く所まで行って、結局破裂したものと云ふことが出來よう。私は「好色文學史」第二巻を期として、その後の出版には全然關係しなかった。私は旅行して仕舞ったので、去年の四月以後「文市」からどんな本が出たかと云ふ事も、さっぱり知らない。…略
とに角思想上の事を云わず、個人的の友情について云へば、今でも私は梅原君を最も氣のいゝ人だと信じてゐる。そして仕事の上では今後握手が困難であるとしても、私的の交誼は従前通りであり度いと思って居る。
ということで、プライベートな付き合いには問題ないが、性格上の相違もあり、仕事のパートナーとしては、これ以上一緒にはやれなかったことを述懐している。
その後の情勢の変化は目まぐるしく、北明は【グロテスク】も手放し、新たに設立した史学館書局から大部の「近世社会大驚異全史」（昭和六年三月）を刊行するなど、彼のもう一つの側面である明治大正期の新聞記事蒐集の集大成とでも呼ぶべき出版を行なった後、軟派出版から遠ざかって行く。
一方の酒井は、本誌で復活を果たした後は、雑誌【デカメロン】や【匂へる園】（何れも風俗資料刊行会）などで健筆を奮い、昭和初期に於ける空前の軟派出版の最後まで活躍することになる。
【談奇】は国際文献刊行会から全七冊（昭和五年五月 ～ 昭和五年十二月）刊行、内第六号のみ発禁処分を受けている。創刊号の巻末で『あまりにエロの為のエロには、もう吾々は背中を向けやう。談奇の世界は、そんなに狭いものではないのだから。』と自ら述べている様に、内容的にはそれ程過激では無いということでもある。尚、第六号に六冊で第一編が終了、七号からは第二編になる旨の案内が載っているが、実際に刊行されたものは、表紙、奥付共第一編七号になっている。
個人誌であるため内容が偏るのは仕方なく、『回春料理の龍虱』、『魔法珍術 指南講座』のような秘薬や魔法に関するもの、 得意分野の『珍書解題』、変った所では『南方先生訪問記』がある。どうせ自身が注文するので、序でに洋書の取り次ぎをやる旨の案内を出していたが、ブローカーみたいなことは良くない、との忠告を受けて中止したりもしている。
| 談奇（全七冊） | ||
|---|---|---|
| 判型 | 菊判 | |
| 編輯兼発行者 | 宮原作次郎 | |
| 発行所 | 國際文獻刊行會、竹醉書房（第五号から） | |
| 刊年 | 昭和五年五月 ～ 昭和五年十二月 | |
| 創刊号 | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 36頁 |  |
| 刊年 | 昭和五年五月廿五日 | |
| 愛の魔術 | 表紙裏 |
| 口絵 上海のモダン美人 |
|
| 目次 | |
|---|---|
魔法秘譚 黒い牝〓（一）
|
1 |
| 貞操帯秘話 | 15 |
| 採生術 | 18 |
| 悪魔に魂を賣つて金持になり度い人へ！ | 19 |
| 世界姦通刑罰考（一） | 21 |
| 一家言 | 24 |
| 埋藏されし財寶と、それを守る精靈 | 25 |
| 上海歡樂鄕物語 悲しき痣 | 29 |
| 巻末に | 36 |
| 第一回裝幀展覽會出品 | 裏表紙裏 |
| 巴里・上海・歡樂鄕・案内 | 裏表紙 |
| 一編二号 | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 34頁 | |
| 刊年 | 昭和五年六月廿五日 | |
| 愛の魔術 | 表紙裏 |
| 口絵 マンドラゴールの根、人参 |
|
| 目次 | |
|---|---|
| 沙翁劇に現れた 麻藥毒藥の研究 | 1 |
| 土耳古秘典エル・キターブ 第一編第七章 | 17 |
|
17 |
| 姦淫と誘惑 | 23 |
| 原書取次 | 25 |
魔法秘譚 黒い牝〓（二）
|
27 |
| 巻末に | 34 |
| 巴里上海歡樂鄕案内 | |
| 浮世絵廃頽畫譜 | |
| 第一回裝幀展覽會出品 | 裏表紙裏 |
| 巴里・上海・歡樂鄕・案内 | 裏表紙 |
| 一編三号 | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 33頁 | |
| 刊年 | 昭和五年七月廿五日 | |
| 愛の魔術 | 表紙裏 |
| 口絵 靴の間違ひ |
|
| 目次 | |
|---|---|
| デカメロン式類似説話研究に關する覺書 | 1 |
| 僕の珍書讀破術並珍書紹介 | 19 |
| 人造人間第一世ドロズの自働人形 | 21 |
| 庚申社會 | ?? |
| 巻末に | 33 |
| 浮世絵廃頽畫譜 | |
| 巴里上海歡樂鄕案内 | 裏表紙裏 |
| 巴里・上海・歡樂鄕・案内 | 裏表紙 |
| 一編四号 | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 35頁 | |
| 刊年 | 昭和五年八月二十日 | |
| 愛の魔術 | 表紙裏 |
| 口絵 ラワ゛ル元帥の肖像 囘春料理の材料 |
|
| 目次 | |
|---|---|
| ラワ゛ル元帥嬰児の血を持つて淫惨なる惡魔の彌撒を修する事 | 1 |
| 八月の僕 | 12 |
| 囘春料理と龍虱《ロンチヤ》 | 13/td> |
當世風呂談議
|
17 |
| 珍書解題（第二囘） | 34 |
| 八月の僕（続き）＆後記 | 35 |
| 巴里・上海・歡樂鄕・案内 | 裏表紙 |
| 一編五号 | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 36頁 |  |
| 刊年 | 昭和五年九月三十日 | |
| 浮世絵廃頽派画譜 | 表紙裏 |
| 口絵 書齊裡の南方熊楠先生像 |
|
| 目次 | |
|---|---|
| 南方先生訪問記 | 1 |
| 囘春料理蝦樹孖湯補遺 | 18 |
| 囘春料理蝦樹孖湯補遺 | 19 |
魔法珍術 指南講座
|
23 |
| 巻末に | 33 |
| エロエロ雙紙 | 裏表紙裏 |
| 奴隷祭 | 裏表紙 |
| 一編六号（発禁） | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 36頁 | |
| 刊年 | 昭和五年十月三十日 | |
| 浮世絵廃頽派画譜 | 表紙裏 |
| 口絵 珍奇なる壷の蒐集 孔雀の羽、初夜權の悲劇 |
|
| 目次 | |
|---|---|
好色ロココ風景
|
1 |
閨房哲學 寢室の書
|
15 |
魔法珍術 指南講座
|
25 |
| 談奇群書第一編巴里上海歡樂鄕案内に挿入せし回答の整理報告 | 32 |
| 『談奇』第二編第一冊（通計第七冊）豫告 | 33 |
| 巻末に | 33 |
| エロエロ雙紙 | 裏表紙裏 |
| 奴隷祭 | 裏表紙 |
| 一編七号 | ||
|---|---|---|
| 頁数 | 36頁 | |
| 刊年 | 昭和五年十二月廿五日 | |
| 浮世絵廃頽派画譜 | 表紙裏 |
| 口絵 變態カフエーの女形 電話カフエー・ホールの一隅 |
|
| 目次 | |
|---|---|
好色ロココ風景
|
1 |
| 好色繪巻『小柴垣草紙』及び『灌丁巻』について | 6 |
魔法珍術 指南講座
|
11 |
| 伯林の變態カフエーと日本カフエー私見 | 25 |
| 巻末に | （ママ） 86 |
| 急告!!! 『ウルトラ風景』 | 裏表紙裏 |
| 日本歡樂鄕案内 | 裏表紙 |