近代以降の地下本はおよそ二千から三千種に及ぶと推定されるが(殆ど根拠はありません。汗)、ありそうで案外と存在しないのが性交態位(※1)を扱ったものである。 態位図を口絵や挿絵に載せたものは少なくないが、態位そのものを主題にした地下本は多くない。 ここで言う態位図とは単なる性交の絵または写真では無く(それであるならば地下本の挿絵は殆どその範疇に入ってしまう)、実用書(実際に実用に耐えるか否かは別問題であるが)としての態位を説明書したものである。 むしろ「あるす・あまとりあ」(久保書店、高橋鐵)シリーズや 「性生活の知恵」(謝国権、池田書店、昭和三十五年六月)、「医心方(房内編)」(数社から刊行)等の公刊書の方にまとまったものがある(※2)。 しかし、性科学(医学)関連の書誌が今回の目的ではないので考察から除外する。
その数少ない性交態位集には大きく二つの系統がある。 一つは「鴛鴦閨房秘考」に始まる系統であり、今一つは「百手秘戯図」の系統である。 勿論、これが総てではないが浅学にして論考するに足る資料、見識を持ち合わせていないので、それらに就いては紹介のみに止める。
「鴛鴦閨房秘考」は戦後の早い時期に刊行されている。 合計六十八態位を、古来からの名称と絵入りで説明している。 この「鴛鴦閨房秘考」からは別種の他「妹背閨房考」「鴛鴦宝典」「鴬宝典」の三属が派生している。 他にも派生しているものが在るかも知れないが、管見にして寓目する機会に接していない。 更に、「妹背閨房考」からは、直系の子孫と混血種とおぼしき二種が生まれている。
「百手秘戯図」は祖先を戦前の「紅白譜」に求めることが出来る。 但し、態位名称の異同がかなりある為、間を繋ぐ何ものかの存在が予想出来る。 その何ものかは、戦後すぐに刊行された「秘戯図録」にその可能性があると考えているが、不幸にして未見の為想像の域を出ない。 従って、「紅白譜」が直接の先祖である可能性も現状では否定出来ない。 「百手秘戯図」は既に発見されているものだけで七種(未見も含め、内四種は同族と思われる)確認されてるので、かなり大規模に放散していったことが想像される。 まだ新種が発見される可能性があるのではないだろうか。 尚、「紅白譜」には「珍画集」(戦前)と名付けられた別の系統が存在するが、種としては子孫を残せないまま絶滅してしまったようである。
系統図にまとめると、次のようになる。 図中〔 〕内の記号は同一種を区分する為に、発見順にA、B、C…のアルファベットを付与している。発生順ではないので記号の順番が逆転している個所もある。
鴛鴦閨房秘考〔A〕 ─┬─ 鴛鴦閨房秘考〔B〕 │ ├─ 鴬宝典 │ ├─ 鴛鴦宝典 │ ├─ 妹背閨房考〔B〕─┬─ 妹背閨房考〔C〕 │ │ │ └─ └───────────── 妹背閨房考〔A〕 紅白譜 ─┬─(秘戯図録)───百手秘戯図〔C〕─┬─〔A〕───〔B〕 │ │ │ └─〔F〕───〔D〕───〔E〕 │ │ 〔G〕? │ └─珍画集 態位スケッチ帖〔A〕─── 態位スケッチ帖〔B〕 古伝百手(原資料)─── 古伝百手 秘技四十八手
初めに「鴛鴦閨房秘考」の系統に就いて説明する。
「鴛鴦閨房秘考」〔A〕は和名「おしどりねやのしぐさ」、B6判、百五十七頁、焦げ茶色の表紙に特徴がある。
の四章から成り立っており、掲載態位数は[性戯四十八手秘考]が四十八、[続性戯四十八手秘考]が二十の計六十八態位である。 見開きの右頁に解説、左頁に髷姿の男女による態位の絵が描かれている。
「鴛鴦閨房秘考」〔B〕は未見であるが(「別冊太陽 発禁本」、平凡社、平成十一年七月所載)、手彩色されてある由、かなり進化したものであろう。
「鴬宝典」、和名「うぐいすほうてん」、B36取り、ノンブル無しで百四十頁、若草色の地に白抜きで蝶の形態が描かれているカバーをしている。 ガリ版刷りで、
が同様に見開きで掲載されている。 髷姿の絵と現代風な容姿の絵とが混在していて一貫性が無いが、稚拙な線画であり、寧ろ退化してしまったと言える。
「鴛鴦宝典」、和名「おしどりほうてん」、B6判、百五十九頁、黄土色の表紙をしている。 「鴛鴦閨房秘考」〔A〕の正続から四十一態位を抜き出し、順不同で掲載している。 体裁は前二書と同様であるが、絵は完全な現代人の姿であり、かなりしっかりしたものになっている。 説明文も『亭主、女房、夫婦』から『男女』に変わり、一般化された相当進化した種であることが分かる。 [男女性器相考]の一部(女性器のみ)や[毛はい方十相]も継承しており、古い形態も若干残している反面、 『雲母集秘要略』『虎の巻』『女の心得』と言った同類他科の属性や、 『四畳半襖の下張り』の様なまったく異なる科の属性をも合わせ持つと言う変種でもある。
この二種の間に何らかの関係を見いだすことは出来ないので、「鴛鴦閨房秘考」〔A〕を直接の祖とする別種と断定できる。 発生は「鴛鴦宝典」の方が早そうであるが、確証はない。
「妹背閨房考」、和名「いろずもうねやのとりくみ」は、現在迄に三種発見されているが、形態が多少異なっている。
〔A〕は判型が 124×177、ノンブル無しで五十頁、表紙は鼠色、ガリ版で本文二度刷りである。 一頁に二態位ずつ掲載されており、本文と絵(髷姿)が別刷りになっている。 態位数は六十八態位あり、内容は掲載順に多少の異同があるが「鴛鴦閨房秘考」と同じである。 説明文も『亭主、女房』であり、先祖の形態をより多く継承している。 [男女性器相考]も巻末に掲載されているが、一二説明が異なっている。
〔B〕はB6判、四十七頁、白緑の表紙に本文は朱色のガリ版刷りである。 名称、掲載態位数、掲載順に異同があるが、「鴛鴦閨房秘考」からの転載であることは歴然である。 〔A〕と同様に一頁二態位ずつ(髷姿)の体裁であるが、説明文は『男女』に進化している。 [男女性器相考]は〔A〕と異なり、何も変化はない。
〔A〕 | 〔B〕 | 〔C〕 |
---|
〔C〕は判型が 109×166、四十八頁、ガリ版刷り、黄色表紙の横綴じである。 四十九態位掲載されているが、一頁に一又は二態位ずつ現代風の姿で描かれている。 [男女性器相考]は女性器のみ掲載されている。 多少の異同はあるが、名称、掲載順等は、「鴛鴦閨房秘考」より〔B〕により近い。
この三種は「鴛鴦閨房秘考」も含めて若干の検証を要する。 検証の為に掲載態位の一覧を表にして次に掲げる。尚、表中の『仝』は左側の名称と同じ、『×』は記載無しを意味する。以下の表でも同様。
鴛鴦閨房秘考 | 妹背閨房考 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
〔A〕 | 〔B〕 | 〔C〕 | |||||||
挿絵 | |||||||||
髷姿 | 髷姿 | 髷姿 | 現代風 | ||||||
態位数 | |||||||||
68 | 68 | 69 | 49 | ||||||
男女性器相考 | |||||||||
|
|
「鴛鴦閨房秘考」 と同じ |
女性器のみ | ||||||
陰毛はい方十相 | |||||||||
有り | 無し | 無し | 無し | ||||||
秘戯四十八手秘考 | |||||||||
網代本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
揚羽本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
いかだ本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
せきれい本手 | 仝 | せきれい | 仝 | ||||||
ことぶき本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
洞入り本手 | 仝 | 洞入本手 | 仝 | ||||||
笹船本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
深山本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
入船本手 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
唐草居茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
忍び居茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
濱千鳥 | 仝 | 浜千鳥 | 仝 | ||||||
横笛 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
こぼれ松葉 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
菊一文字 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
浮橋 | 仝 | 仝 | (名称の記載無) | ||||||
八重椿 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
つばめ返し | 仝 | つばめかえし | つばめがえし | ||||||
万字くずし | 万字(卍)くづし | まんじ(卍)くづし | 仝 | ||||||
出船うしろ取り | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
つぶし駒掛け | 仝 | つぶし駒かけ | 仝 | ||||||
本駒掛け | 仝 | 本駒かけ | 仝 | ||||||
〆込み錦 | 仝 | 〆こみ錦 | 仝 | ||||||
〆込み千鳥 | 仝 | 〆こみ千鳥 | 仝 | ||||||
うしろ櫓 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
亂れぼたん | 乱れぼたん | 乱れたんぽぽ | 乱れたんぽゝ | ||||||
本茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
いかだ茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
時雨茶臼 | 仝 | 仝 | × | ||||||
機織茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
御所車 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
月見茶臼 | 仝 | 月見草 | 仝 | ||||||
寶船 | 宝船 | 仝 | 仝 | ||||||
空竹割 | 仝 | 仝 | 竹割 | ||||||
しがらみ | 志がらみ | 仝 | × | ||||||
いかだくづし | 筏くづし | いかだくづし | × | ||||||
廊つなぎ | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
かげろう | 仝 | 仝 | × | ||||||
きぬた | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
狂い獅子 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
花菱ぜめ | 仝 | 花びしぜめ | × | ||||||
尺八 | 雁が首 一名 尺八 | 仝 | × | ||||||
むく鳥 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
白光錦 | 仝 | 白光面 | 日光面 | ||||||
さかさ椋鳥 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
二ツ巴 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
立鼎 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
やぐら立ち | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
続秘戯四十八手秘考 | |||||||||
俵だき本手 | 俵抱き本手 | 仝 | × | ||||||
浮島本手 | 仝 | 仝 | × | ||||||
つるべ落し | 仝 | × | × | ||||||
だるま返し | 仝 | × | × | ||||||
地蔵抱き(居茶臼) | 仝 | 居茶臼(抱き地蔵) | 抱き地蔵 | ||||||
鳴門うしろ取り | 鳴門(うしろ取り) | 鳴門(後どり) | × | ||||||
いすか取り | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
裾野 | 仝 | 仝 | × | ||||||
坐禪ころがし | 仝 | 坐禅ころがし | 仝 | ||||||
押し車 | 仝 | 仝 | × | ||||||
花あやめ | 仝 | 仝 | × | ||||||
下り藤 | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
やぶさめ | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
ひよどりごえ | ひよ鳥越え | ひよどりごえ | × | ||||||
八ツ橋 | 仝 | 木俣がけ | × | ||||||
丁字引き 左足が伸びてい | 仝 曲げている | 押し車 名称を間違っている | 仝 | ||||||
巣ごもり | 仝 | 仝 | 仝 | ||||||
虹のかけはし | 仝 | 仝 | × | ||||||
絞り芙蓉 | 仝 | 仝 | × | ||||||
岩清水 | 仝 | 仝 | × |
掲載態位の数と名称から推測すると、 「鴛鴦閨房秘考」の直接の子孫は〔A〕の様に見える。 しかし、[男女性器相考]を見ると「鴛鴦閨房秘考」と〔B〕は同一であるが、〔A〕とは異なっている。 異なっている内容は『麩まら』の解説であるが、「鴛鴦閨房秘考」の説明が間違っており、 〔A〕から〔B〕が派生したとすると〔B〕が誤った形質で先祖帰りをしたことになり考えにくい。 又、両種の表紙を比較すると同じ様な図柄に表題が書かれているが、〔B〕の方がより精密であり、 発生が遅れるほど形質が雑になっていくのが一般的な傾向であることを考慮すると、どうしても〔B〕の発生が先と結論せざるを得ない。 しかし、〔A〕が〔B〕の子孫と考えるには態位名称等に無理があり、寧ろ「鴛鴦閨房秘考」により近いと言える。 おそらく、直接の祖先は「鴛鴦閨房秘考」であり、何らかの形で〔B〕が混ざった混血種と考えるのが自然であろう。 題名の面白さ故にちょっと手を出してしまったのが、混血種と成ってしまった理由ではなかろうか。
態位名称の変遷から〔C〕が〔B〕の直系の子孫であることは明白である。
もう一方の「百手秘戯図」の系統は古く戦前迄遡る。 現在発見されている最古の種は「紅白譜」で、判型は 150×228、百二十頁のガリ版刷り和綴本である。 『リグの吠院』と題する「カーマスートラ」の部分訳、 『宰相夫人と道化師』等と一緒に [四十八手圖解]として五十一態位を稚拙な線画で掲載している。
「百手秘戯図」〔A〕、120×179、九十八頁(所見本は完全標本ではなく、一丁分欠けている)、 白緑の表紙のガリ版刷り、大和綴の横綴本である。見開きで右頁に解説文、左頁に挿絵が描かれている。態位数は四十八である。 図と名称が一致していない部分もあるが、ノンブルを無視して丁毎に入替えれば問題は無いため、ノンブルの書き間違いかと思われる。
〔B〕は、B36取、百頁、薄緑表紙にガリ版刷りの横綴本である。 体裁は〔A〕と同様見開きで一態位の説明をしている。 多色刷りの口絵があることと、扉に「金山書房」と発生場所が露わになっている点が他と異なる特徴である。
〔C〕は、121×180、五十二頁、桃色表紙にガリ版刷り、横綴本である。 一頁に図と説明文が同居しているのが特徴である。
これらの三種に共通しているのは、共通のはしがきがあることと、態位図に背景があることである。〔F〕以下の種には小道具としての背景はあるが、背景らしい背景は存在しない。 しかも、使われている背景がほぼ同一なので、同一の系統であることに疑いの余地は無い。 それらの背景を描かれている小道具と共に比較すると、〔B〕が〔A〕の様態をそのまま取り入れていることが多く、 〔A〕の場合は実際に紐で綴じてあるものを、〔B〕は紐綴じであるかの如き絵を表紙に描いている点からも、 〔B〕の発生が〔A〕の後であることに疑念は無い。 但し、一部〔C〕から取ったと思われる背景のものが存在するので、〔A〕と〔B〕の間に別種が存在するか、 〔A〕と〔C〕の混血かの何れかであろう。
〔A〕と〔C〕の発生順に就いては、人物の描写、背景の複雑さから言えば〔A〕の方が〔C〕よりも勝っている。 しかし、個々の部分に対する描写の仕方、例えば影の描き方などは〔C〕の方が丁寧である。 また、〔B〕には無くて、〔A〕と〔C〕にのみ存在する背景があるので、〔A〕と〔C〕は直系か同一の先祖から枝分かれしたものと考えられる。 本考では取り敢えず直系説を取るが、その場合は〔A〕に態位名称の記載の無いものがあるので、〔A〕から〔C〕が派生したとは考えづらく、逆である可能性が高い。
〔A〕 | 〔B〕 |
---|---|
〔C〕 | 〔D〕 |
〔D〕は、B36取、九十七頁、桃色表紙のガリ版刷りである。 縦綴であるが、横方向にして上下見開きで説明文と図が描かれている。 他と異なるのは『はしがき』が無いことと、態位数が一つ少ない(四十七態位)ことである。
〔E〕は未見であるが、「ザ・コレクター」(秀英書房、下川耿史、昭和五十八年十一月)掲載の態位図に見られる絵と文字の特徴は〔D〕に酷似している。 説明文が一致していない部分もあるので別種であることは明かであるが、前後関係ははっきりとはしない。只、近年、近い種である〔F〕が発見されたことにより、三種を比較検討すると、〔D〕の後に位置付けられるのではないかと推測される。
〔F〕も所蔵はしていないが、雑誌【IGNORANCE SIMPLE REPORT】NO.7 〜 NO.10(IGNORANCE CLUB、1994.7〜10)に全図と説明文が覆刻されている。
解題によると、半紙本、袋綴、五十頁、四十八手画セピア刷、本文黒刷となっている。
表紙は全く異なるが、口絵一葉、掲載順、態位図は殆ど〔D〕と同じであり、説明文が一部異なるものの似通っている。先の解題によると「戦後すぐの頃のものか」
とあるが、態位名の用字の変化からも〔D〕に先行するものと考えられる。
〔F〕の解題には、「この本の復刻が昭和四十年頃山陰の三朝温泉で売られていた」
横本、百頁、白い表紙、の本があるそうなので、これは仮に〔G〕としておく。
〔F〕の系列なのではあろうが、未見のため位置付けが出来ないので、当面単独標本とする。
以下に各々記載の名称を掲げるが、『[ ]』で括ったものは態位図が正しい名称のものではなく、括った名称の図である事を現す。
百手秘戯図 | ||||
---|---|---|---|---|
〔B〕 | 〔A〕 | 〔C〕 | 〔F〕 | 〔D〕 |
送りとったり | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
外わく | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
ねふし | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
内わく | 仝 | 仝 | 内かけ | 仝 |
ほぞ | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
手谷がけ | 仝 | 仝 | 手谷かけ | 仝 |
半横 | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
両のばし | 仝 | 両のはし | 仝 | 両伸し |
前づけ | 仝 | 仝 | がけくずれ | 仝 |
がけくずれ | 仝 | 仝 | 前づけ | 仝 |
四ところぜめ | 四ところ攻め | 仝 | 四所攻め | 仝 |
一本せおい | 仝(文のみ) | 仝 | 一本背おい | 一本背負い |
(一丁落丁) | ||||
つくえがえり | 仝(図のみ) | 仝 | かたすかし [かつぎ合い] | 肩すかし [かつぎ合い] |
かたすかし | 仝 | 仝 | つまどり [かたすかし] | 仝 |
かつぎあい | 仝 | かつぎ合い | かつきあい [つまどり] | 仝 |
つまどり | 仝 | 仝 | つくえがえり | 仝 |
後やぐら | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
しきこまた | 仝 | 仝 | 敷き小股 | 仝 |
さかさ茶臼(注3) | (名称未記載) | さかさ茶臼 | きぬかつき | 仝 |
つるのはがいじめ | 仝 | 仝 | つるのはがい締め | 鶴の羽掻じめ |
送りてがらみ | 送り手がらみ | 送りてがらみ | 送り手がらみ | 送り手絡み |
かもたれ | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
足がらみ | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
かもの入首 | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
腹やぐら | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
小股はさみ | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
下手やぐら | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
大わたし | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
坐り茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
茶臼まわし | 仝 | 茶臼まわり | 茶臼まわし | 仝 |
本どり | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
ごばんぜめ | 仝 | 仝 | 碁盤ぜめ | 碁盤攻め |
本茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
つきまわし | 仝 | 仝 | 突きまわし | 仝 |
すくいあげ | 仝 | 仝 | 矢筈がけ | 仝 |
矢筈がけ | 仝 | 仝 | すくいあげ | 仝 |
鴨の求めがえし | 鴨のもとめがえし | 鴨の求めがえし | 仝 | 鴨の求め返し |
三ところぜめ | 仝 | 三ところ攻め | 股すかし | 仝 |
股すかし | 仝 | 仝 | 三所ぜめ | 三所攻め |
つくばがえり | 仝 | 仝 | つくばがえり | つくば返り |
かわずがけ | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
とびこえ | 仝 | 仝 | とびこし | 仝 |
後茶臼 | 仝 | 仝 | 仝 | 仝 |
二本ぜめ | 二本ぜめ [のぼりかけ] | 仝 | 二本ぜめ | 二本攻め |
のぼりかけ | 片手やはず [二本ぜめ] | のぼりかけ | 仝 | 仝 |
片手やはず | のぼりかけ [片手やはず] | 片手やはず | 仝 | 仝 |
抱えあげ | 抱え上げ | 抱えあげ | 抱え上げ | 仝 |
よつがらみ | 仝 | よる(ママ)がらみ | 四つがらみ | × |
注3)一般的な名称ではきぬかつぎと呼ばれている。
「珍画集」は戦前の種で、菊判、七十八頁、ガリ版の和綴本である。 各種艶本の挿絵を稚拙な線画で模写した珍種である。 その中に[陰陽四十八手圖解]と称する態位集があり、「紅白譜」と同じ内容の態位集がある。 「紅白譜」には無い四態位を追加しており、進化の跡が見られる。 百手秘戯図と合わせて三種の名称を用字も含めて比較すると、百手秘戯図に相当の変化が見られることが分る。
紅白譜 | 珍画集 | 百手秘戯図 |
---|---|---|
ほんどり | 本取組 | 本どり |
かけもたれ | 仝 | かもたれ |
あしがらみ | 足がらみ | 足がらみ |
よつがらみ | 仝 | 仝 |
きぬかつぎ | 仝 | さかさ茶臼(「きぬかつぎ」のものもある) |
かもの入首 | 仝 | 仝 |
かつぎあげ | 仝 | かつぎ合い |
向ふつき | 向こうつき | つくがえり |
のぼりかけ | 仝 | 仝 |
つくはへかヽり | 仝 | つくばかえり |
飛違 | とびちがい | どびこえ |
小股はさみ | 仝 | 仝 |
かわずかけ | 仝 | かわずがけ |
矢はずかけ | 仝 | 矢筈がけ |
片手やはず | 仝 | 仝 |
外わく | 仝 | 仝 |
内わく | 仝 | 仝 |
二本づめ | 仝 | 二本攻め |
三所づめ | 仝 | 三ところ攻め |
四所づめ | 仝 | 四ところ攻め |
両のばし | 仝 | 両のはし |
かけくづれ (別名 窓の月) | 仝 | がけくすれ(形は全く異なる) |
手斧かけ | 仝 | 手谷がけ |
半横 | 仝 | 仝 |
腹やぐら | 仝 | 仝 |
後ろやぐら | 仝 | 仝 |
下手やぐら | 仝 | 仝[抱へあげ] |
抱へあげ | 抱えあげ | 仝[下手やぐら] |
股すかし | 仝 | 仝(足が揃っていない) |
かたすかし | 仝 | 仝 |
本茶臼 | 仝 | 仝 |
座り茶臼 | 仝 | 坐り茶臼 |
後茶臼 | 仝 | 仝 |
茶臼まわし | 仝 | 茶臼まわり |
逆手からみ | 仝 | 送りてがらみ |
ねごし | 仝 | ねふし |
つまどり | 仝 | 仝 |
碁盤づめ | 碁盤つめ | ごばんぜめ |
すくひ上げ | すくい上げ | すくいあげ |
鴫の羽返し | 仝 | 鴨の求めがえし |
鶴の羽掻じめ | 仝 | つるのはがいじめ |
撞木ぞり | 仝 | ほぞ |
前づけ | 仝 | 仝 |
敷小股 | 仝 | しきこまた |
逆とったり | 仝 | 送りとったり |
大わたし | 仝 | 仝 |
つきまわし | 仝 | 仝 |
一本背負 | 仝 | 一本せおい |
首引きあげ | 仝 | |
横茶臼 | 仝 | |
鐘つき上げ | 仝 | |
他に四図 |
発生時期が多少あやふやなだけで、発生過程も場所もハッキリしている。日本生活心理学会から昭和三十一、二年頃生まれた。 昭和二十四年十一月に突如発生した態位の解説書である「あるす・あまとりあ」は環境が適合したのか百万部を越える大繁殖に成功し、続、補冊、定本、etc、と子孫も多く残しているが、文字のみによる解説という致命的な欠陥を持っていた。 それを補う目的で、誰が見てもすぐ分かるような図版として、ひっそりと生まれた種である。誰が見てもすぐ分かることを目的としていながら、誰にでも見られては困ると言う矛盾する宿命を背負ったものである。
同書の六十二型に補冊の六型を加えて合計六十八態位の図を収載しているが、その名称は「凭立位」「女上脊膝位」「間隔脊臥位」「逆角側臥位」などまるで漢字の読み取りテストをされている様で、字面だけではチンプンカンプンである。 だからこその解説図なのであろうが、いやでも萎えてしまう。幸いなことに特装版の方には六十八態位以外に特1から特18迄の十八態位が貼り込みで追加されており、これには和名が併記されているので、その名称を参考までに掲げておく。
表紙 | 扉 | 第一図 |
---|
表紙 | 第一図 |
---|
名称 | ||
---|---|---|
笹身本手 | 入船本手 | はたおり茶臼 |
洞入り本手 | だるま返し | 宝船 |
浮島本手 | 狂い獅子 | 乱れ牡丹 |
網代本手 | 筏茶臼 | 座禅ころがし |
つるべ落し | 廓つなぎ | 押し車 |
深山本手 | いすかどり | きぬた |
ガリ版ではあるが手彩色で二色の色付けをしている。態位の名称に独特のものが多いので、作者が勝手に付けたのではなかろうか。
あまり意味があるとは思えないが、名称のみ列記する。
かけぶとん、四国攻め、ぶらんこ、向臼、松葉くづし、猫車、ゆりかご、豆堀、さかさ臼、後攻、花見餅、えび攻、さかさ臼、姫貝、片足取、本組、富士の裾、餅臼、蛇攻め、坐位足取、肩車、さかさ富士、胴じめ、横取 、強襲 、人力車、本茶臼、重ね餅、犬攻め、本手、姫人形、立枝
書物という形態では無いので、本来は取り上げる対象ではないのであるが、態位という分野に於いては外すことは出来ず、これを元にした書物も存在する様なので、参考資料として提示する。 内容は、厚手の色紙風の用紙に一態位ずつ描かれ、簡単な説明が付いている。
発生地は日本生活心理学会、当館所蔵のものは、帙に「秘戯百態」と書かれた題箋が貼ってあるが、元々なのか旧蔵者が貼ったのかは不明である。図版には「古伝百手」と書かれてあるので、こちらが正式な名称なのであろう。
帙 | 態位図 |
---|
標題の他に異名や同種異態名も記述されており、態位名称を調べるには便利である。
名称 | 異名/異態名 |
---|---|
巴どり | 「山さん、古人形、片男浪」「尺八、千鳥の曲、雁が首」「椋鳥」 |
逆巴 | 「さかさ椋鳥」「ひよどり越えの坂落し」 |
二丁だて | 「二つ巴」 |
みところぜめ | 「三味線ぜめ」 |
四国ぜめ | 「四所攻め」 |
ほんどり | 「本馬、まとも、四つ番い、前どり、とこの外」 |
枕がかり | 「枕敷き、張枕、せきれい台、鶺鴒本手」 |
松葉ちがひ | |
足がらみ | 「たすき」「揚羽本手」「とんぼつり」 |
三つがらみ | 「四つ絡み」 |
善光寺 | 「番い鳥、足伸ばし本手、筏崩し」「重ね」 |
つくゑがけ | |
志がらみ | 「外がけ」 |
小股ばさみ | 「外かこみ」「剃刀」 |
富車 | 「ひき蛙」「蛙どり」「ことぶき本手」 |
坐りづけ | 「居づけ」 |
きぬかつぎ | 「片がけ」 |
かたぐるま | 「両かけ」「鴨の入首、俵抱き、つるべ落し、昇差、前づけ」「足かゝえ、笹舟、いざり倒し、だるま返し」 |
かつぎ上げ | 「蝦攻め」 |
のぼりがけ | |
鏡茶臼 | 「向う突き、花筏」「狂い獅子」 |
入船本手 | |
居茶臼 | 「ちごどり、あぐら、投網」 |
股すかし | |
さがりふぢ | |
腹透し | 「虹の掛橋、鴨の入首」 |
後茶臼 | 「俵茶臼」「鳴戸」「鴨の羽返し」「背負い掛かり」 |
すくひあげ | 「乱れ牡丹」「枠廻し、茶臼廻し」 |
本こまがけ | 「炬燵がゝり」「反り観音」「海老」 |
つきまわし | |
逆手からみ | 「締込み錦」 |
志き小股 | |
裾野 | |
ひよどりごえ | 「つぶし駒がけ、下手櫓、抱え櫓、手車、犬どり」 |
出船うしろどり | |
田植どり | |
大わたし | 「駒がけ、種ケ島」 |
ごばんぜめ | 「つまどり」 |
仏壇返し | 「追かけ」 |
押し車 | 「大車輪、とんぼ返り」 |
立膝どり | |
寄せかけ | 「凭れがけ、凭れこみ」 |
立ちがかり | 「もち出し、立かなえ、鯉の滝登り」 |
せみがかり | 「止り蝉、櫓立ち、みこし、立臼」 |
菊の懸崖 | |
本茶臼 | 「坂床、笠伏せ、破れ傘」 |
茶臼のばし | 「茶臼善光寺、いかだ茶臼」 |
片手やはず | |
後やぐら | 「腹やぐら、時雨茶臼」「機織茶臼、つり橋」 |
横茶臼 | 「帆立貝、逆十文字」 |
横やぐら | 「宵の引臼」 |
宝船 | 「根腰、片のばし」 |
逆茶臼 | 「締こみ千鳥、逆手からみ、くさり」 |
志ゅもくぞり | 「絞り芙蓉、あみだ笠」 |
後ろづけ | 「上水車、後水車」 |
淀の水車 | 「きぬた、ちがい駒」 |
てこがかり | 「逆手四ツ」 |
逆の浮橋 | 「かげろう」 |
十字がかり | 「廊つなぎ」「分廻し、時計ぼぼ」 |
こぼれまつば |
※1 | 辞書的には体位が正しいが、故高橋鐵が「体位ではまるで体操をやっているみたいで味気ないので、態位の字を当てる」と言ったことに共感を覚えるため、この字を使用している。 |
※2 | と長い間思い込んでいたのであるが、或日同好の知人宅に赴いて「百手秘戯図」の異版を見せて貰おうと懇願した時現れたのは、箱一杯に入っていた態位集であった。ロッカーから取り出してきた箱を開けて吃驚、予想だにしなかった多数の現物、数十冊に及ぼうかというそのものを目の当たりにして考えが一変してしまった。本稿は元々それを見る前に書かれていたので、タイトルも態位集系譜考であったものに序説を加え、内容も少し変更したものである。 |