毎号三十二頁程度の包み表紙の小冊子で、通巻でノンブルが振ってある。総頁数は五百八十八頁、印刷はされていないが、表紙(及び裏表紙)も含めたノンブルになっているのは雑誌故であろうか。表紙と目次の頁にビアズレー等の西洋のエロティックな図版からとったカットが描かれており、特に一号から五号の表紙には別刷りにして貼り付けてあるのも本誌の特徴である。
本誌刊行前に、創刊準備号と題した小冊子がガリ版刷りで頒布された。その中の『奇書次号内容』に『また2号或は3号より活版刷となる予定です。』とあるので、創刊号、場合によっては二号もガリ版で刊行するつもりであったようだが、実際は最初から活字になっている。創刊号と二号の図版が別刷りにして貼り付けてあるのも、ガリ版では図版の再現が出来ないための措置と思われる。また、本誌とは別に会員連絡兼補足資料用のガリ版小冊子「ら・ぼあ」、「みるわーる」がほぼ毎号添付されており、会員からの便りや刊行案内、本誌に載せられなかった部分の追加資料などを掲載している。
さらに、別冊として「歌姫日記」(ガリ版、無償)、「セックサス」(活字、有償)、「小夜時雨」(ガリ版、有償)が各々数回に分けて頒布された。「歌姫日記」と「セックサス」は各分冊毎に表紙も付いて、単独の冊子としての体裁を整えていたが、「小夜時雨」は本文だけバラで頒布し、最後に表紙を送付することで、読者に製本させる形式になっていた。雑誌の終刊後も「小夜時雨」と同じように「乱れ雲」(ガリ版)が何回かに分けて頒布されている。
この種の雑誌の定番の一つに江戸艶本の紹介があり、本誌にも多くの艶本の訳出、紹介がある。しかし、永井荷風やヘンリー・ミラーの作品を扱うのは珍しい。特に、ミラーに就いては本誌の他に、先にも記したように「セックサス」を最初は仮綴の分冊で、後にハードカバーで刊行するなど力を入れている。東京限定版クラブは作品社内に置かれ、本誌のどこにも書かれていないが、主宰は松川健文である。荷風やミラーを取り上げているのも、松川の個人的な嗜好からであろう。
当時表に出すことが出来なかった江戸艶本の訳出や、関連資料の頒布を行うなど会そのものの運営は当初から裏で行われていたが、本誌には奥付もあり一応体裁は整っていた。しかし、十一号からはその奥付も無くなり正式に地下出版の仲間になった。従って、同号以降の刊年に就いては他の資料からの推測であるため前後一ヶ月程度の誤差は考えられる。
尚、従来本誌は昭和二十九年中に終刊されていると言うのが定説であったが、十四号の「みるわーる」に『略…奇書十四号の原稿を印刷屋に入れて、既に一ヶ月半、もたついている中に師走となってしまいました。』とあるので、同年中には十四号までしか刊行されていないことが判る。年が改まった昭和三十年三月頃頒布された近世庶民文化研究所の会報「瓦版」第廿七号に『最近までに出たものでは、
…略…雑誌類は「奇書」十五号、「造化」九号
…略』
とあるように、第十五号は同年二月か三月の刊行である。終刊号に当たる十六号は「瓦版」第廿七号(昭和三十年五月頃、何故か廿七号が二回ある)に『雑誌類の刊行は「造化」十号まで、その他は「奇書」十五号
…略…以降は出ていない。』
、同増刊十号(昭和三十年十一月頃)に『限定版倶楽部の「奇書」は、十六号までで中止の故。』
とあるので、五月〜十一月までの間の発行であるが、終刊号に当るものを出してから中止と決定するまでに数ヶ月を要するとは考え難いので、最も遅い場合は九月か十月が想定できるが、今は仮に七月としておく。
補足)本誌には毎回(?)別葉の図版が添付されていたが、各図版と本誌の関係が判然としない部分があるので、整理出来次第追加する予定でいる。
奇書(全十六冊) | ||
---|---|---|
判型 | A5判 | ![]() |
編集 | 東京限定版クラブ | |
発行 | 東京限定版クラブ | |
刊年 | 1952年5月1日 〜 1954年7月(?) |
I | ||
---|---|---|
頁数 | 34頁 | ![]() |
刊年 | 1952年5月1日 |
目次 | 2 | |
---|---|---|
―特集― 歌麿研究 | ||
歌麿の秘・畫 | 吉田暎二 | 4 |
ゴンクウルの「歌麿」に紹介された枕絵 | 8上 | |
歌麿抄録 | 9下 | |
艶本解題 會本枕地氣志 |
原 浩三 | 10 |
会本枕地志氣 | 14下 | |
藐姑射秘言 鑑賞 | 柳田良一 | 16 |
珍書探求廿五年 | 岡田 甫 | 22 |
広告 珍書探求 | 23下囲 | |
モウパッサンの僞書二つ
|
24上 | |
限定版だより 藐姑射秘言 全 | 24下 | |
推薦 チャタレイ夫人 | 25下 | |
北回歸線(連載第一回) | ヘンリ・ミラア | 26 |
著者紹介 | 27下囲 | |
ら・ぼあ | 32 | |
東京限定版クラブについて | 34上 | |
奥付 | 34下 |
II | ||
---|---|---|
頁数 | 32頁 | ![]() |
刊年 | 1952年6月5日 |
目次 | 39下 | |
---|---|---|
―世界艶画考1― バイロスの艶笑画 |
原 浩三 | 40 |
「末摘花」の版木は殘つてゐる | 岡田 甫 | 45 |
北回歸線(連載第二回) | ヘンリ・ミラア | 47 |
『フアンニイ・ヒルの思出』について | KLM | 55 |
『歌姫日記』の女主人公 | 原 比露志 | 56 |
東京限定版クラブ會則 | 58上囲 | |
奥付 | 58下 | |
=特集= | ||
私家本 腕くらべ考 第一回 | 59 | |
小説 腕くらべ考 補足稿(筆注:本文にこのタイトルは無い)
|
61 |
III | ||
---|---|---|
頁数 | 32頁 | ![]() |
刊年 | 1952年7月30日 |
目次 | 75下 | |
---|---|---|
荷風の女性 | 吉田精一 | 76 |
広告
|
81下 | |
風來山人と勝繪 | 原 比露志 | 82 |
北回歸線 第三回 | ヘンリ・ミラア | 84 |
こんこん痴喜の歌 ELOGE DU CON |
マチユラン・レニエ | 90 |
太平樂巻物 阿千代之傳 天竺老人戯書 | 92 | |
東京限定版クラブ會則 | 98中 | |
奥付 | 98下 | |
私家本 腕くらべ考 第二回
|
99 |
IV | ||
---|---|---|
頁数 | 32頁 | ![]() |
刊年 | 10(ママ)52年9月20日 |
目次 | 111下 | |
---|---|---|
ダンヌンチオの樂慾文學 | 日夏耿之介
|
112 |
ポンペイのお土産寫眞 | 原 浩三 | 117 |
おしゃれ女工と學生さんの作者 アンリ・モニエ | 119 | |
おしゃれ女工と學生さん(一幕) | アンリ・モニエ | 120 |
広告 珍書探求 | 125下 | |
こんこん痴喜の歌 | マチュラン・レニエ (梶井洸訳) | 126上 |
後記 | 126下 | |
東京限定版クラブ會則 | 126下 | |
奥付 | 127下 | |
花の幸 <第一回> | 128 |
V | ||
---|---|---|
頁数 | 36頁 | ![]() |
刊年 | 1952年11月15日 |
目次 | 147下 | |
---|---|---|
特別研究 辧才天雜考
|
原 浩三 | 148 |
―鑑賞― 志道軒五癖論 |
吉田精一 | 160 |
フランス一の伊達男について | 松村喜雄 | 162 |
花の幸 <第二回> | 165 | |
東京限定版クラブ会則 | 裏表紙 | |
奥付 | 裏表紙 |
VI | ||
---|---|---|
頁数 | 33頁 | ![]() |
刊年 | 1953年2月1日 |
口絵 | 187上 | |
目次 | 187下 | |
---|---|---|
文学表現の自由と猥褻の問題 「ミラア事件」の顛末 |
188 | |
広告 ポムペイの美術 | 192左 | |
ポムペイ美術と原君 | 岡田 甫 | 193 |
岡田君の文に添えて 思い出の斷章 |
原 浩三 | 196 |
同性愛詩 寄宿生 | ヴェルレエヌ 青柳瑞穂譯 | 198 |
艶本紹介
|
石井歳章 | 200 |
「繪本センリキヤウ」に就いて | 原 浩三 | 204 |
新撰古今枕大全 (伏字表一枚あり、所蔵本は貼り込み済み) | 206 | |
東京限定版クラブ会則 | 裏表紙 | |
奥付 | 裏表紙 |
VII | ||
---|---|---|
頁数 | 32頁 | ![]() |
刊年 | 1953年5月25日 |
目次 | 225下 | |
---|---|---|
ミラボオ伯爵の艶情小説
|
松村喜雄 | 226 |
好色出版史の内 梅原北明のこと |
花房四郎(遺稿) | 232 |
川柳 漫々考(一) | 花咲一男 | 235 |
ポムペイ會遊記 (別葉壁画写真一葉あり) |
宇佐美正夫 | 239 |
ポムペイと陽物崇拜 | 241囲 | |
艶笑音盤鑑賞會
|
四谷左門 | 242 |
三書小解
|
原 比露志 | 247 |
<艶本紹介> 御覧男女姿 中之巻 |
249 | |
奥付 | 裏表紙 |
VIII | ||
---|---|---|
頁数 | 32頁 | ![]() |
刊年 | 1953年7月1日 |
目次 | 261下 | |
---|---|---|
ハンス・カルヴェルの指環 | 夏川文章 | 262 |
川柳漫々考(二) | 花咲一男 | 265 |
口繪解説 ゴヤの怪物 | 270下囲 | |
艶本に表れた男色 「源氏思名貞姫」より | 271 | |
好色出版史の内 梅原北明のこと(前承) |
花房四郎 | 273 |
次號内容予告 | 276下囲 | |
艶本問答 往復書簡
|
原 浩三 石井歳章 | 277 |
祝言 色女男思<紹介> | 281 | |
於佐名那志美<詞書集> | 287 | |
奥付 | 裏表紙 |
IX | ||
---|---|---|
頁数 | 40頁 | ![]() |
刊年 | 1953年8月20日 |
目次 | 297下 | |
---|---|---|
秘戲録 | 伏見冲敬 | 298 |
L'Etrange Passion 奇怪なる情熱 |
松村喜雄 | 300 |
川柳漫々考(三) | 花咲一男 | 304 |
艶本紹介 牡丹燈籠快夷 |
311 | |
広告 絵入り好色旅枕 | 314下囲 | |
女づくし 見立十二ヶ月世さ聲ぶし | 315 | |
日本艶話類聚 | 中野榮三 | 316 |
艶本問答2 | 原 浩三 富田彌郎 | 323 |
於佐名那志美 詞書集2 | 331 | |
奥付 | 裏表紙 |
X | ||
---|---|---|
頁数 | 36頁 | ![]() |
刊年 | 1953年10月20日 |
目次 | 342下 | |
---|---|---|
『南回歸線』の性欲描寫 | 松浪信三郎 | 342 |
第九号正誤表
| 34下7 | |
現代版ふらんす隠語考(1) =お女郎屋篇= |
小田一誠 | 348 |
ヴェルレェヌ 春 | 青柳瑞穂譯 | 352上 |
LYSISTRATA 性愛戰争
|
アリストフアネス作 原比露志戯訳 | 354 |
ビアズレーの挿絵について | 362下囲 | |
文学と猥褻(一) | ヘンリー・ミラー | 363 |
譯者註記 | 夏川文章 | 368 |
艶本問答
|
石井歳章 原 浩三 | 372 |
國貞欠題本について | 酒井恒世 | 375下囲 |
會本開謌僊(図版) | 376 | |
奥付 | 裏表紙 |
XI | ||
---|---|---|
頁数 | 48頁 | ![]() |
刊年 | 1953年2月(?) |
目次 | 381下 | |
---|---|---|
小説「ひとりごと」(秘稿) ――荷風「問わずがたり」私家本―― |
むさしの迯水居主人 | 382 |
川柳漫々考(三)(ママ) | 花咲一男 | 391 |
LYSISTRATA 2
|
アリストフアネス作 原比露志戯訳 | 395 |
昭和末摘花
|
宮仲串助 | 400 |
現代版ふらんす隠語考(2) =男色篇= |
小田一誠 | 402 |
艶本紹介 美通能詠 |
猿目透七 | 406 |
「美通能詠を見て」 | 原 浩三 | 416下 |
探偵小説のエロチスム | 松村喜雄 | 418 |
小松百龜畫 「貝づくし」について |
原 浩三 | 420 |
XII | ||
---|---|---|
頁数 | 48頁 | ![]() |
刊年 | 1953年4月(?) |
目次 | 433下 | |
---|---|---|
特輯江戸趣味と荷風の秘版 | ||
とんだ(靈)宝 | 434 | |
あとがき | 花咲一男 | 442 |
春画帖眞袖枝折 | 花咲一夫解説 | 443 |
LYSISTRATA 女の平和 3
|
アリストフアネス作 原比露志戯訳 | 450 |
好色人・カザノヴア | シュテファン・ツヴァイク | 456 |
十一号「ひとりごと」正誤表 | 462上 | |
小説「ひとりごと」第七章 | むさしの迯水居主人 | 463 |
清長の欠題本について ――会本和良意曾女―― |
原 浩三 | 472 |
荷風の”門外不出書”を繞って | J・S | 477 |
XIII | ||
---|---|---|
頁数 | 33頁 | ![]() |
刊年 | 1953年8月(?) |
目次 | 表紙裏 | |
---|---|---|
第二の性から見た第一の性 | 松浪信三郎 | 485 |
詞華集その一 女教師
|
ヘンリ・ミラア 木屋太郎訳 | 492 |
女子同性愛の研究
|
アルバート・モル著 上月龍之介訳 | 495 |
女友達 <夏> | ヴェルレェヌ 青柳瑞穂訳 | 500囲 |
好色人 カザノヴァ(続) | シュテファン・ツヴァイク 夏川文章訳 | 507 |
艶本研究「はまと大和絵」について | 猿目 透 | 514 |
北齋画と推定される「はまと大和絵」 | 原 浩三 | 516 |
XIV | ||
---|---|---|
頁数 | 32頁 | ![]() |
刊年 | 1953年11月12月 |
資料 好色旅枕 | 521 | |
青春のカザノヴァ | シュテファン・ツヴァイク 夏川文章訳 | 538 |
荷風「踊子」秘稿 | 541 | |
五渡亭国貞 | 原 浩三 | 542 |
「三国女夫意志」について | 猿目 透 | 545 |
豆談語 抄 | 547上 | |
戰後艶本漫筆(一) | 間 義勇 | 548 |
後記 | 552上 | |
目次 | 552下 |
---|
XV | ||
---|---|---|
頁数 | 20頁 | ![]() |
刊年 | 1954年3月(?) |
目次 | 553下 | |
---|---|---|
續繪本問答 「四季の詠」秋冬の巻 |
原 浩三 | 554 |
艶画四季時計解題 | 岡 祿郎 | 559 |
晩年のカザノヴァ | シュテファン・ツヴァイク 夏川文章訳 | 560 |
戰後艶本漫筆(二) | 間 義勇 | 565 |
江戸時代の見世物 | 岡田 甫 | 571 |
メキシコの人形 | 宇佐美正夫 | 572下 |
XVI | ||
---|---|---|
頁数 | 16頁 | ![]() |
刊年 | 1954年7月(?) |
目次 | 573下 | |
---|---|---|
国芳の艶画作 | 原 浩三 | 574 |
夫婦和合十訓 | 西島 実 | 577 |
異常性慾の種々相 | 川本汐二 | 580 |
《フランス古譚より》 結婚初夜の新妻が無邪気であったこと |
三谷幸夫戯訳 | 582 |
戰後艶本漫筆(三) | 間 義勇 | 583 |
目次(573頁と同一) | 裏表紙裏 |